タイムブレイカー

時は西暦20XX年、世界は深刻な環境問題に悩まされていた。
地球温暖化、オゾン層の破壊、都市部の砂漠化…。
しかしつい先日、世界は年々勢いを増すこれらすべての問題の原因を、
何故か、東京都世田谷区在住無職の「モリー田中」に押しつけた。

国連「今日から地球の環境破壊は全部あなたのせいになります。」
田中「勘弁して下さい。」
国連「あなたのお母さんから直々のお願いです。」
田中「わかったよママ。」

そして彼はある日の深夜に姿を消した。
この日を境に「田中を倒せば地球の明るい未来は保証される」
という謎の思想が全世界に広まり、彼は世界的指名手配犯になった。

そこへお決まりの流れとして田中を倒す勇者が必要となるのだ。
先週の土曜日、とある町内会のくじ引きで勇者に当選してしまった「カズマ」は、
今春から某国立大学へ入学することとなっている大学準備生だ。
ちなみに彼は体質的にギョウザ以外は受け付けず、家の水道からはお酢が出てくる。

翌日カズマはさっそく田中を捜しに出かけた。
彼を倒すには時を自由自在に操る伝説の剣「タイムブレイカー」が必要であると、
担任のサムに以前言われたのをカズマは思い出した。
古代ギリシャ時代から、世界のどこかに眠ると語り継がれている幻の秘剣だそうだ。

だが世の中便利である。

彼は近所のコンビニへ向かった。
カズマ「タイムブレイカーありますか。」
店員「なんすかそれ。」
カズマ「伝説の剣です。」
店員「レモン味ならありますよ。」
カズマ「それください。」
店員「温めますか?」
カズマ「はい。」
店員「298円になります。」

こうして難なくタイムブレイカーを手にしたカズマは、
田中の居場所を突き止めるべく、道行く人々から情報収集をし始めた。
カズマ「田中が何処にいるか知りませんか。」
おばさん「うちにいるわよ。」
カズマ「展開早くね?」

田中の居場所までも難なく探し当ててしまったカズマは、
このまま事がうまく進みすぎても面白くないと思ったので、おばさんにある依頼をすることにした。
カズマ「今すぐ成田空港から海外へ亡命するよう、田中に伝えてくれませんか。」
おばさん「あら、どうして?」
カズマ「これには深いわけがあるので、そこは気にしないでください。」
おばさん「別にかまわないけど、その代償として…悪いけど私には死んでもらうわよ。」
カズマ「どうぞ。」
おばさん「チュッパチャップス!」

カズマ「ところで田中は本当にこの家にいるんですか。」
おばさん「それウソよ。」
カズマ「ウソかよ。」
彼はおばさんを一酸化炭素で還元して、そこを後にした。

そんなこんなでカズマが油を売っている合間にも、地球環境の汚染は進行しているのだった。
ピピピピピ…
国連から渡されている携帯電話が鳴った。
カズマ「もしもし。」
国連「大変です、砂漠化が急激な拡大をし始めました。さっさとミッションコンプリートしてください」
カズマ「これでも精一杯頑張ってます、せかさないでください。お腹が痛くなってきました。」
国連「今あなたの家の玄関10cm手前まで砂漠が来てます。」
カズマ「死ぬ気で頑張ります。」

カズマが依然として田中を発見することができず、近所の公園で一人柔道をやっているとき、
世界的指名手配犯となっている田中は、自宅で引きこもり生活を強いられていた。
田中「いや、なんで俺が指名手配犯なんだよ。マジSWN。」
彼は指名手配されたプレッシャーから、もはや言語能力を失い始めていた。
ちなみにSWNは『それはないでしょう』の略である。
田中「いや、なんで俺が指名手配犯なんだよ。マジSWN。」
どうやら彼は、毎日部屋でこの台詞を一人連呼して暮らしているようだ。
田中「…こうなったら本当にこっちから環境破壊してやる。
   さしあたり温暖化の上昇に拍車をかけてやるぜ!みてろよ全世界の人間ども!」
とペットのミドリガメにつぶやき、彼は家を飛び出した。

彼の向かった先はというと、近所にある小さな公園であった。
上がった息を落ち着かせたのち、彼はベンチに腰かけ、精一杯深呼吸し始めた。
田中「俺が地球上の酸素を吸い尽くして、二酸化炭素吐きまくれば温暖化MAX。
   スーハースーハー…いい調子だ、気温が100度上がるのもそう遠くはない。」
深呼吸は続く。

日が沈み始めた。
田中「…スーハー…スーハー…スー…もう無理、挫折。マジNOK。」
当たり前だが温暖化は失敗に終わった。ちなみにNOKは「情けない俺カス」の略である。

田中「そうか、気温を上昇させるんじゃなくて、海水面を上昇させても同じようなことに違いない。
   こうなりゃ北極の氷を溶かしまくってやるぜ。」
彼はホッカイロを8つ持って北へ向かった。

3日後、彼はロシアを縦断し北極圏に入り込んだ。
田中「北極の氷河を溶かせばとりあえず海面があがるはずだ、エケケケケ。」
彼は持参したホッカイロを全て開封し、全力でもみ始めた。
田中「全然海水面上昇しないんだけど。どうして?なんでなの?調子のんなよ北極GUMA!」
何故か怒りの矛先は北極グマに向かい、それから8時間もみ続けたがもちろん何も起こらなかった。
田中「ちきしょう、こうなりゃ作戦変更だ。」

翌日彼は銀行で貯金を全部下ろし、コンビニで炭酸飲料を買い尽くした。
田中「全部振りまくって開栓すれば、そりゃもう気温は200度近く上がるはずだぜ。」
キュッキュッ…プシュー
キュッキュッ…プシュー
キュッキュッ…プシュー
日が沈み始めた。
田中「いや、無理だから。マジNOK。」
またしても彼の策略は失敗に終わった。

その頃、正義の味方カズマはとうとう田中の住所をつきとめた。なんと彼は高校時代の同級生だったのだ。
カズマ「そんなやついたっけ。」
田中「忘れるなんてひどいじゃないか。」
カズマ「ごめんごめん。」




 
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