電話相談室2

一部の者にしか知られていない伝説の「ハロー相談室」は、
どんな相談にでも乗ってくれるという素晴らしい電話相談室である。

経営者でありカウンセラーでもある「森伸太郎」は1年ほど前に、
あまりに適当な業務内容がとうとう警察の耳に入り御用となっていた。
しかし第一審の法廷において、彼のもつ脅威の話術が裁判官の心を動かした結果、
なんと奇跡的にも無罪で釈放されたのだ。

裁判官「被告人、お前にはもう情状酌量の余地はない。」
森「今日朝ごはん食べてないんです。」
裁判官「超かわいそう。無罪。」

晴れて事務所に戻った彼は、無事に相談室を再開することとなった。
電話も解約しないまま1年間身柄を拘束されていたため、
事務所の電話には留守電が800000件ほど蓄積されていた。

その大量の留守電を数ヶ月に渡ってきちんと聞いた彼は、
一つ一つの相談の要点をメモに書きとめ、
なんと留守電を入れておいてくれた相談者に電話をかけなおすことにしたのだ。
ここまでくると、もはや偉人たる心の持ち主である。

森「…よし、まずこの人からいってみよう。」
プルルルル・・・ガチャ
相談者A「もしもし?」
森「こんにちは、こちらハロー相談室の森という者ですが。」
相談者A「私も森っていうんですよ。」
森「なら大丈夫ですね。」
ガチャ

彼は、自分が何に安心したのかわかっていないことがわからなかった。

森「この人…か、よし。」
プルルルル・・・ガチャ
相談者B「はい、○○ですが。」
森「こんにちは、ハロー相談室の森といいます。」
相談者B「その名前は祖父の代から大嫌いなんですけど。」
森「嫌われているにもほどがあります。」
ガチャ

森「うーん…、この、生涯独身になりそうで不安という男性に電話してみよう。」
プルルルル・・・ガチャ
相談者C「はい、○○です。」
森「こんにちは、ハロー相談室の森といいますが、彼女か奥様はいらっしゃいますでしょうか?」
相談者C「え…。」
森「います?いませんね?いないんでしょ!Yeah BINGO Hooooooooooo!!!」
ガチャ

森「じゃぁ次だ。」
プルルルル・・・ガチャ
相談者D「もしもしー?」
森「こんにちは、こちらハロー相談室の森という者ですが。」
相談者D「…?…あ、はい。」
森「この度相談室の経営を再開し、留守電に記録されていた相談者様に
  折り返しの電話をかけさせていただいております。
  D様からは、半年ほど前にお電話をいただいておりましたので。」
相談者D「あー、しましたしました。俺が電話したんです。」
森「お電話ありがとうございました、本日改めましてご相談を承りたいと思うのですが。」
相談者D「いやね、この電話機での電話のかけ方がわからないんですよ。」
森「それはどう考えたって既に解決済みですね。」
ガチャ

森「なんだか妙に上手くいかないな…。」
プルルルル・・・ガチャ
相談者A「もしもし?」
森「こんにちは、こちらハロー相談室の森という者ですが。」
相談者A「さっきもかかってきましたよ。」
森「そうでしたっけ。まぁ実ははっきり覚えてますけどゲラゲラチェゲバラ。」
相談者A「その通り、私は森です。」
森「私もです。では私は『木』を1本減らして『林』になりましょう。」
相談者A「負けるわけには行きません、なら私は2本減らして『木』になりましょう。」
森「そして何も無くなったのです。」
ガチャ

森「もう一度、もう一度だ。これで巧くいくはず。」
プルルルル・・・ガチャ
相談者E「はい、もしもし?」
森「こんにちは、ハロー相談室の森といいます。」
相談者E「…あ、はい。私…1ヶ月前に電話しました。」
森「ありがとうございます、この度相談室の経営を再開し、
  留守電に記録されていた相談者様に折り返しの電話をかけさせていただいております。」
相談者E「そうなんですか…じゃぁ、お話聞いてもらってもいいですか?」
森「はい、もちろんです。」
相談者E「私、付き合ってる男性がいるんですけど…、
     どうも最近彼…怪しいんですよね、色々。携帯のメールとか…。」
森「なるほど…、ということはそれはもう1ヶ月以上前からなんですね?」
相談者E「そうですね、もう17年目です。」
森「そのまま一生我慢し続けられる気がします。」

相談者E「それで…どうすればすっきりできるのかなって。」
森「彼氏さんには、直接お話ししたことはないんですか?」
相談者E「いえ、あります。『私、他に好きな男がいるのよ!』って何回も言いました。」
森「何故かあなたが壮大に自爆してるような気がしますが。」
相談者E「私がそう言っても、彼は毎回
    『ごめん、サブプライムローンは全部俺のせいなんだ』としか言ってくれないんです。」
森「確実にコミュニケーション能力の欠如が原因です。」
相談者E「だけど私、彼のその言葉にいつも納得しちゃうんですよね…てへっ☆」
森「もう私の手には負えません。」
ガチャ

森「なぜだ…いったい何が…何がいけないんだ私の!」
名カウンセラーとしての肩書きに大きな疑問が浮上してきた。
プルルルル…プルルルル…ガチャ
相談者F「ただいま留守にしております。ピーという発信音の後に、メッスー…やっべ、言い間違えた。」
森「そんなに露骨な居留守をされたの初めてです。」
ガチャ

さすがに飽きてきた彼は、もう適当に電話をかけることにした。
森「ど・れ・に・し・よ・う・か・な、て・ん・の・か・み・さ・ま・は・お・れ。」
プルルルル・・・ガチャ
森「こんにちは、ハロー相談室の森といいます。」
相談者G「すまいいと森の室談相ーロハ、はちにんこ。」
森「完敗です。」
ガチャ

森「もう私にはこの仕事は無理なのかもしれない…。」
まだ電話を返していない相談者はたくさん残っているが、
もはや彼にはこの仕事を続けていく自信がなくなってきていた。
森「…実家の母親に電話でもしてみよう。」

プルルルル・・・ガチャ
マザー森「もしも?」
森「それじゃ電話の受け答えにならないよ母さん。」
マザー森「あら、その声は伸太郎じゃない。どうしたのよ突然。」
森「いや、特に理由はないんだけどな…。最近、疲れてて…。
  おふくろの方は元気でやってるかなと思ってさ。」
マザー森「ふうん…そうなの。実は母さんもね、最近ちょっとヘコんででたんだけど…、
     久々にあんたの声聞いたら、あっという間に死にたくなっちゃった。」
森「なぜ俺を産んだ。」
マザー森「Yes, we caaaaaaaaan!」
これを機に彼らの親子関係は断絶に陥り、今後2人が接触することは1度もなかった。

精神的窮地に立たされた森は、気づくとパソコンで検索を始めていた。
検索バーには「電話 相談」と入力されている。
森「同業者がどのように仕事をしているか参考にしてみよう。」
何度か検索を繰り返しているうち、彼は一つのサイトにたどりついた。
そこは電話相談員としての心構えを説いている、業界では有名なサイトであった。
森「なになに…? その一、依頼者のプライバシーを尊重すべし…。」
片手で顎を撫でながら、彼は一人ぶつぶつと読み上げる。
森「プライバシーって何だ?」
やはりこいつは今すぐ呼吸をやめるべきだ。

気づくと、彼はそのサイト全体を数時間かけて読みふけっていた。
森「なるほど、そうだったのか。何か…つかめた気がするぞ。
  よし…もう一度、もう一度依頼者に電話してみよう。」
彼はメモった依頼者リストのページを次々にめくり返していく。
森「…この番号にしよう。覚えやすいからもう掛け間違えることもなさそうだ。」
ぐっと拳をにぎりしめ、森は目をつぶりながら受話器をゆっくりとプッシュした。
プルルルル・・・ガチャ
警察「こちら110番。事件ですか事故ですか?」
森「大事件です。」

翌日彼は警察署に出頭した。




 
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