三者面談

区立・学費はうまい棒でもおk中学校3年生の「熊田智也」は、進路で悩んでいた。
彼の意志としては普通に公立の高校へ入学したいのだが、
母親のベア子が「あなたは高校なんか行かないで高校の教師になりなさい」、
という無茶苦茶な注文をしてくるので、一家はもめていた。

父親の和之はというと、「お前は俺みたいな男になれ」の一点張りなので
家庭内での地位は近年低迷しており、食事は生のアスパラガスのみに制限されていた。

その家庭内乱がピークに達しようとしていたとき、
折りよくも学校では3年生全体に三者面談の機会を設け始めていた。
ベア子は学校から受け取った面談希望用紙の「出席」欄にハンコを20000回押し、
とある平日の夕方に担任との面談を確保したのだった。

面談当日、6時限目の授業が終了したあと智也は一度帰宅した。
智也「ただいまー。」
ベア子「おかえり。面談は4時半からよね?当たり前じゃない知ってるわよ。」
智也「早速なにを言い始めるんだ。」
ベア子「ビデオカメラって何処にしまったんだったかしら。」
智也「何しに行く気だてめぇ。」

時間をもてあました智也はマンガを読んでいたが、ついうたた寝をしてしまい、
起きたときには既に時計の針は16時を回っていた。急いで用意を済ませる。
智也「母さんもう時間だ、行こう。」
ベア子「何よ、まだあと12時間20分もあるじゃないの。」
智也「もう来なくていいよ。」

まだ一つ前の親子が面談中だったので、2人は廊下で待っていた。
ベア子「先に行くなんてひどいじゃない。」
智也「母さんがわけわからないこと言うからだ。」
ベア子「それはそうと、前の人たちったら随分時間かかってるわね。」
智也「話が長引いてんだろ。」
ベア子「私はどれだけ引っ張ればいいの?」
智也「意図的に伸ばす必要はない。」
ベア子「あらそう。とりあえず、私は右サイドから積極的にセンタリングを上げるわ。」
智也「頼むから普通にしててくれ。」

順番は来た。
コンコン、ガラガラ
担任「よくぞここまでたどり着いたな!褒めてやろう!」
智也「どこの魔王だお前。」
担任「失礼しました。どうぞお座りになってください。」
ベア子「智也の母のベア子といいます、嫌いなものは教師です。」
担任「熊田ベア子さんですね、もう名簿見たときから名前で大爆笑済みです。」
智也「なぜお前らいきなり敵対ムードなんだ。」

担任「ちなみに私、担任です。」
ベア子「そんなの85億年前から知ってます。」
担任「『担』が姓で、『任』が名前です。」
ベア子「知っているわけがありません。」

コンコン
担任「ん?誰かな。どうぞー。」
ガラガラガラ
和之「すいません、遅れました。」
智也「ぶっ、何でここにいんだよ。」
担任「どちら様ですか?」
和之「智也の祖父母の娘の夫の和之です。」
智也「何その無意味かつ遠回りな血縁関係。」
ベア子「私が呼んだのよ。じゃぁ先生、今日は改めて面談よろしくお願いしますね。」
担任「まさかそちら側が3人だから三者面談とかほざきませんよね?」
ベア子&和之「その気満々ですけど。」
担任「お帰り願います。」
和之「本当に長い間お世話になりました。」
和之は学校を後にした。

担任「では始めましょうか…えーと、まずこれが先日の期末テストの成績表です。」
智也「…あんまよくなかったんだよな。」
ベア子「えーと…、あら…智也、あなた全部平均点を割ってるじゃない!」
担任「それは教科別最低点です。」

ベア子「…国語と英語の点数があんまり芳しくないわね。」
智也「あぁー、そう、そう。英語やばかったんだわ。最後の長文がなぁ…。」
担任「そうですね…数学は学年上位でしたでしたが。」
ベア子「SU…GAKU GAKU。」
担任「お母様、どうしました。」
ベア子「いえ、私は学生のとき数学が大の苦手だったもんでタンジェント。」
智也「大丈夫か母さん。」
ベア子「失礼なこと言わないで。だからあんたはいつまでたっても内積がゼロなのよ。」
担任「保健室はまだ開放中ですからどうぞ。」
智也「先生、うちの母親いつもこんな調子なんで気にしないでください。」
担任「そうですか、わかりました。では話を続けましょう」
ベア子「デカルトデカルト Poh! Poh!」

担任「智也くんは都立志望だということですが…。」
ベア子「高校へは行かせません。」
智也「短刀直入MAX。」
担任「え…、というと就職…ですか?」
ベア子「そうです。この子を高校へは進学させずに高校教師にさせます。」
担任「それは…いくらなんでもちょっと無理があるのではないでしょうか。」
智也「だろ?先生もそう思うよな普通。やっぱ母さんがおかしいんだよ。」
ベア子「なら高校教師に進学させて高校にさせます。」
担任「それは絶対に無理です。」
ベア子「Boys Be Ambiciousってよく言うって感じな現象?」
担任「スペルミス並びに日本語が恐ろしく不愉快です。」
ベア子「プリーズ キス ミー。」
担任「話を続けましょう。」

智也「なぁ母さん、今時高校行かない15歳なんていないって。」
ベア子「だったらあなたがパイオニアになるべきでしょうな状況で突入。」
智也「もういい加減にそのウルトラ級にうざい日本語やめろ。」
担任「お母さん、智也くんの成績ならば並みの都立は悠々の安全圏です。
   それに、進学したほうが教師として生きていく上でも有利です。」
智也「っていうか、さっき母さん『嫌いなものは教師です』って言ってたじゃん。
   そもそも俺を教師にさせる目的なんてあるのかよ。」
ベア子「そんなたとえ話しないでよ。」
智也「何もたとえてねぇ。」
ベア子「ふぅ…まぁ2人にそこまで言われちゃ仕方ないわね。」
智也「お、やっとわかってくれたのか。」
ベア子「目的を話してあげるわ。」
智也「そろそろ対応すんのだるくね?」
担任「あぁ。」

ベア子「目的は簡単、あなたを高校に進学させないためよ。」
智也「教師じゃなくてもいい件。」
担任「もう面倒くさいのでさっさと次の話に移りますね。」
ベア子「早くして。」
担任「これほどうざい人は初めてですよ。」

担任「気を取り直して、えーと…何かご家庭内で、他に学校関係のことでお気になさってることはありますか?」
ベア子「お前の顔。」
担任「もう立ち直れません。」

智也の担任はショックのあまり気絶し、イスもろとも床へ倒れてしまったので、
急遽職員室から臨時の教師が2人の元へ派遣されることになった。
ちなみに気を失った担任はというと、
もはや用済みとして体育座りの格好でロッカーへ押し込まれた。
ちなみに彼は半年後まで発見されない。

ガラガラガラ…コンコン
貞本「こんにちは。先ほど倒れた担任の代わりに指名された貞本といいます。」
智也「どうでもいいけどお前なんで教室入ってきたあとでノックしたの。」
貞本「貞本だからです。」
ベア子「誰でも構わないけど、ちゃんとしたお話はできるんでしょうね。」
貞本「貞本です。」
智也「俺もう帰りたい。」

貞本「お聞きしたところによりますと…お母様は智也くんを私立に推薦入学させたいとか。」
智也「状況把握率2%」
ベア子「いいえ、私はこの子を進学させる気は全くありません。」
貞本「ほほう…、それは何か理由があってのお話ですか?」
ベア子「先ほどの先生にもお話しましたが、ただ高校に入れさせたくないだけです。」
貞本「なるほど…、これは久々に手ごわい相手のようだな…!クックックックッ!!」
智也「何一人で盛り上がってんだよ。」

貞本「お母様、お言葉ですが今の世の中で大学を出ないで教師になる、
   いえ、将来を見据えた職業に就くのは困難を極めます。」
智也「はい、もう教師に説得されたの2人目だ。いい加減あきらめろ母さん。」
ベア子「でも…やるだけやってみなきゃわからないじゃない。」
智也「そんな無駄な努力してまでチャレンジする価値ないよ。」
ベア子「決してあきらめるな…!自分の感覚を信じろ!」
貞本「敵志望校シールド確認!モニターに表示するよ!」
ベア子「ノリいいなお前。」
智也「2人でスターフォックスネタやんのやめろ。」

貞本「…要するに、お母様は智也君にもっと理科を頑張ってほしいと。ですね?」
智也「残念ながらまったく要約できてないぞお前。」
貞本「それは困りましたね…じゃぁどうします?」
智也「お前がだ。」
ベア子「後ろにつかれた…!?おかしい、逃げ切れん!」
智也「まだスターフォックスやってたのかよ。」
貞本「あの、もう面談やめません?」
智也「それは俺の台詞だカス。」

貞本「今日はちゃんとしたお話があまりできず申し訳ありませんでした…。
   でも、一体全体どうしてこんなことになっちゃったんですかね?」
智也「わからないのかよ。」
ベア子「いえ、私、今日先生方とお話できてやっと目が覚めました。」
智也「えっ?」
ベア子「この子は、きちんと高校に進学させます。」
貞本「おぉ。」
智也「やっとわかってくれたのか…。」
ベア子「そうよね、あなただって高校生活を楽しみたいもんね。」
智也「まぁな、これで…やっと受験勉強にも力が入るよ。」
ベア子「でも登校も勉強もしちゃだめよ。」
智也「強制ニートとか意味不明。」

翌春―。

桜の花は既に散ってしまったが、依然として春の風が漂う4月上旬。
智也「やべ遅刻だ、行ってきまーす。」
ベア子「もう二度と帰ってこないでね。」
智也「頼むから毎朝その台詞で送り出すのやめてくれ。」

ベア子もついに観念したのか、
智也は無事高校へ進学し、楽しい高校生活を送りはじめていた。
しかし、

和之「なぁ母さん、今日ぐらいはちょっと…茹でてみてもいいよな?」
ベア子「あんたを茹でるなら。」
和之「すいませんでした。」

相変わらず、父親の和之は生アスパラガスのみの生活を強いられていたのだった。




 
↑良かったら投票してやってください↑

BACK
inserted by FC2 system