料理の道

日本一の懐石料理店と名高い「KAISEKICK」は、プロの料理人を目指す青年たちが夢見る場所である。
そんな青年の一人「松岡忠」は地元ではちょっとした料理名人であった。
彼がネギを切る速度は神の領域、1秒間に10本を切り刻んでしまう。
彼がおにぎりを作る速度は光を超越、1分間に1000個作り上げてしまう。
しかしただ速いだけで何にもならず、できたおにぎり何故か毎回三角形でなく星型になる。
そんな彼がついにKAISEKICKで働くことになったときの話である。

忠「今日からここで働かせてもらうことになった新人の松岡忠です、よろしくお願いします。
  得意な料理は吸い物です。好きな曲は『ビッグブリッジの死闘』です。」
佐々木「私がお前の指導に当たる佐々木だ、お前には当分カツオ節を削ってもらう。」
忠「任せてください、カツオ節削りは生後2ヶ月からやってます。」
こいつ何者だ。
佐々木「じゃぁ手始めにこれを削ってみろ、少しでも厚さが変化したらお前を削る。」
こいつも何者だ。
忠「それでは…いきます!」
彼は削り器を右手に、カツオ節を天高く投げた。
バキッ
カツオ節が天井を突き破った。

忠「す、すいまセンチメンタル。」
佐々木「お前には当分洗い場に立っていてもらう。」
忠は洗い場へ引きずられていった。

佐々木「言うまでもないが、使い終わった食器を洗ってそれぞれの場所へ戻しておけ。
    1枚でも違う場所に入っていたら皿もろともお前を砕く。」
またすごいこと言った。
忠「分かりました。」
佐々木「ほら、早速来たぞ。どれ洗いさばきを見せてもらうか。」
忠は自身に満ちた表情でお椀を手にし、目に見えないほどの速さでウォッシングし始めた。
佐々木「な、なんと。」
佐々木の目は忠の手に釘付けだ。無理もない、もはや人間のなせる業ではないのだから。
忠「洗い終わりました。」
要した時間はたったの5秒、忠は満足気に泡を水で流し始めた。

そこにお椀の姿はなかった。

忠「勢いで椀まで削り去ってしまったようです。」
忠はまな板で500回叩かれた。

佐々木「どうも緊張のあまり上手くできんようだな。
    気持ちを落ち着かせるために包丁でも研いでおけ、磨きに少しでも鈍さがあったらお前を研ぐ。」
そろそろ突っ込みがしづらくなってきた。
忠「高校時代、僕の包丁を研ぐ速さは学校一だったんです。」
高校時代にそんなことで競い合っていたというのはよく分からないが、そう言うといきなり包丁を振り回し始めた。
佐々木「ばか者!何をしているんだ!」
忠はただひたすら空気を切り続ける、そして数秒後ゆっくりと腕を止めた。
そして深呼吸をした後、彼はこう口を開いた。
忠「ほら、見事に研げているでしょう。空気との摩擦による結果です。」
なんと包丁は非の打ち所がないほど研ぎ澄まされていた。
佐々木「これは…素晴らしい。こんなことが可能なのか。」
そう言って彼が刃の部分に触れた瞬間、包丁は粉々に砕け散った。

忠「ど、どうも失敗のようデストロイヤー。」
佐々木「誰が見てもわかる。」
忠は箸で3000回突き刺された。

忠「お願いします、何か吸い物を1つ作らせてください!それで僕の真価がお分かりになられると思います。」
佐々木「自分からそんなこというとはいい度胸だ、やってみるがいい。」
忠がメラゾーマを唱えてあっという間にお湯を沸騰させると、佐々木はカツオ節を渡した。
佐々木「これがうちの店で使っているカツオ節だ。産地はあの有名な南半球にあるグレモゲレ島だ。」
忠「何処それ。」
佐々木「いいから早く始めろ。」
忠「ふふ、行きますよ、これこそ神のダシの取り方!すなわちゴッド・ダシ・ボンバー!」
この上なくダサい技名なのはさておき、
忠はカツオ節がまるでリンゴの皮であるかのように割いていき、
そして蝶が舞うかのごとくカツオ節を鍋の中に優しく入れていく。
そして5秒間カツオ節を湯に浸し、慣れた手つきでサッと鍋から取り出した。
佐々木「うむ、手際のよさは完璧。だが肝心の味の塩梅が悪ければ不合格だ。」
忠「どうぞ、お試し下さい。」
佐々木は椀に注がれた湯をゆっくりと口にした。
佐々木「…。」
忠「いかがでしょうか。」
佐々木「まさにこれこそ神の味。」
ドサッ
佐々木はその場に倒れた。
忠「俺途中で何か変なことした?してないよ、Ah Ah。」

佐々木「いいか、これが最後のチャンスだ。これに失敗したらお前はもう地球上に居られなくなる。」
忠「オーケーオーケー、任せてくだサイクロン。」
佐々木「じゃぁこの煎茶を上手く入れてみろ。
    お茶は料理の傍らに添える非常に大切なもの、もはや料理のひとつとも言える。」
忠「俺お茶よりレモンスカッシュがいい。」

彼は地球上から消えてなくなった。




 
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