鉛筆とノートの会話

鉛筆をE、ノートをNと記す。

E「まず、名前を書いて…と。」
N「ねえ、もっと優しく書いてよ。」
E「俺に言うなよ、少年の筆圧が強いせいだ。」
N「痛いのよ、破れたらどうする気?肩のあたりがゴリゴリする。」
E「いいじゃないか、何ページもあるだろ。」
N「私は30枚しかないの。80枚や100枚のタフな人と一緒にしないでくれる?」
E「そうか。でもまぁもう5時限目だから、あと少しの辛抱だ。」
N「しょうがないなー…よーし、頑張ろっと。」

N「ねえ、この子また漢字間違えたよ。」
E「本当だ、これじゃ読めないな。」
N「あ、また間違えた。漢字の練習してないんだねこの子。」
E「まあ俺たちにとってはどうでもいいことだ。」
N「えー…まぁ私だって自分の意思で書かれてるわけじゃないけど、
  きちんと製品化された一人前の紙として、正しい字を書かれたいの。」
E「ていうか『超酸母子』ってなんだよ、『朝三暮四』だろ。何だその激しく酸っぱそうな親子は。」
N「もう…ノートとして恥ずかしい…。」

E「ぐわあああああああああああああ!」
N「どうしたの!?」
E「こ、骨折した…重度の脊髄損傷だ…。」
N「大丈夫!?鉛筆削りはどこ!?」
E「こ、こいつ今日鉛筆削り持ってきてねぇ…、これまでか…。」
N「あ、男の子が筆箱からハサミ取り出したわよ。」
E「やめろおおおおぉぉぉ!ハサミで研がれるなんて絶対に断る!」
N「そういうものなの?」
E「っっったりめぇだ!生き恥をさらすに等しい!
  っていう間にもこいつ、右足の辺りから削り始めやがった!やめろ!おい!」
ガリガリガリガリ…
N「ちゃんと鋭くなったじゃない。」
E「どこが!?このギザギザ具合!マジしょこたんじゃないけどギザシャープ!
  勘弁してくれよ、こんな姿じゃもう筆箱に帰れないじゃないか…。」
N「鉛筆も大変ね。」

E「っっあああああああああああああ!」
N「今度は何よ!」
E「こっ、この野郎!俺の背中に落書きしてやがる!」
N「落書き?この123…とかいう数字のこと?」
E「そうだよ!よりによって、鉛筆であるこの俺をサイコロ代わりにするという最低最悪パターンの落書き!
  そして黒サインペンの細側のみによる単純かつ低俗なデザイン!
  極めつけはこのギザギザ加減…もう終わりだ、こんな姿じゃろくに表も歩けない…。」
N「あんたに足は無いわよ。」

クルクル パシッ
クルクル パシッ
E「回っすんじゃねええええええぇぇぇ!」
N「静かにして。」

N「ねぇ。」
E「ん、なんだ。」
N「ちょっと、悩みを聞いてくれる?」
E「何だ、急に改まって。」
N「絶対笑わないでよ。」
E「いいから、聞いてやるから早く言え。」
N「…私、再生紙100%なんだ。」
E「ぷっ。」
N「あっ!笑わないでって言ったでしょ!」
E「いや、悪い。そんなこと気にしてるのがおかしくて。」
N「わかってないのね、再生率社会をなめてるわ。なめきってる。」
E「いやいやいや、再生率社会って何だよ。」
N「古紙の配合率が低いほどエリートの社会に決まってるでしょ。」
E「超初耳だ。」
N「そんな中、私は大型スーパーのオリジナルノートという極めて無名の出身。
  しかも文房具セールの半額で買われたっていう、なかなか厳しいキャリアなの。
  唯一の救いといえば、ノート5枚売りの中で一番使われやすい色だったってことかな。」
E「ふぅん。じゃぁあのCAMPOSとかだとどれくらい出世有利なんだ?」
N「あの人たちは流石の知名度をもってるからねー…、
  まぁ一般にいう高ノート歴ってとこかな。」
E「高ノート歴なんて言葉聞いたことない。」
N「ちなみに、ルーズリーフは職歴として認められないの。」
E「転職するのかお前ら。」

E「ちなみに俺は四菱の『No.9800』なんだ、1946年に発売したやつ。」
N「四菱と言ったら、日本鉛筆業界の老舗じゃない。」
E「まぁそうだが…お前さ、ファーバーカステルって知ってる?」
N「なに、その強そうな洋菓子。」
E「違う、ドイツが誇る世界最高峰の鉛筆メーカーだ。」
N「話が長くなりそうね。」
E「いや待て、聞いておいて損は無いぞ。やつらのグリップ感、書き味の滑らかさと柔らかさといえばだな…。
  そう、例えるならおでんのはんぺんを指でなぞったときの…」
N「もういいわ。」

E「のわあああああああああああああ!」
N「悲鳴あげすぎよ!どうしたの…ってあれ…何処いったのかしら。」
E「下だ、下!机の下!この野郎おおおぉぉ、ペン回ししてて落としやがった!
  だから回されるのは嫌なんだ!ちきしょう、さっさと拾え!床のタイル冷たい!」
N「机から落ちるなんて鉛筆の宿命でしょ、いちいち大声上げないでよ。」
E「てっ、てめ!足で手前に引き寄せんな、汚れるだろ!」
N「うるさいなー、もっと静かにしゃべれないの?」
E「痛っ!…ちっ、タイルの割れ目にはまっちゃったじゃないか!
  あだだだ、なのにそのまま足で引き寄せんなバカ!
  …そしてジーパンで拭くなよ!ティッシュかハンカチ使え!おい!」
N「付き合ってらんない。」

そんなこんなで翌日

N「キャー!どうしたのよその身長!」
E「…昨夜、こいつ宿題やっててさ、数学の計算問題だったんだわ。
  驚異的な筆圧で連立方程式解きまくりやがって、俺折れまくり。削られまくり。」
N「そっか…そのとき私まだバッグにしまわれてたから。。」
E「そういうお前は、今日はなんだか紙にウェーブかかっててシャレてるな。
  いま流行りのゆる巻きヘアーとかいうやつか?」
N「残念だけど、さっき登校中に雨に濡れてふやけただけよ。」
E「そうか、でもいい感じだぞその紙型。」
N「あんたわかってないわね、なかなか直らないのよ?この紙型。
  ドライヤーで乾かしたりすると余計に波打っちゃうし…、
  やっぱ今は黒紙でロングストレートよね。」
E「ページが真っ黒で長いノートなんて使い物にならんぞ。」

E「あともう1つ気になるんだが…。お前、やせた?」
N「あ、やっぱ気づいた?」
E「ああ、全体的に1mmほどスリムになったように見える。」
N「でしょでしょ〜、昨日寝る前に5ページぐらい転職していったからね。」
E「は?」
N「だ・か・ら、私から5ページ分切り取られてルーズリーフになったのよ。」
E「…要は破られてメモ用紙化したってことだな。」
N「あの子たち…無事にやっていけるかしら、この高ノート歴社会で。」
E「俺としては、大抵その場合すぐゴミ箱行きだと思うけど。」

数ヵ月後

N「…私たち、もうすぐお別れになっちゃうのかな。」
E「ん、突然どうした。」
N「もう…白紙ページの残りがないの。多分、今週末には私…引退することになると思う。」
E「そうか…でも俺の方が先に身を引くことになるだろうな。」
N「…もう残り5cm近いもんね。」
E「違うんだ。俺たち鉛筆は全員、リストラされる。」
N「どういうこと!?」
E「少年が…シャーペンを使うことになったそうだ。」
N「えっ…。」
E「残念だが、仕方のない現実だよな。この不景気だ、コストの高い鉛筆はもう必要とされてないんだよ。
  中学生になったら周りの生徒もみんなシャーペン使い始めるし…。」
N「いやよ!私…あなたたち鉛筆じゃないとダメなの!
  シャーペンってみんな…ギザギザってとがってるじゃない。
  こんな最後の最後になって…あんな風に平気でノートを傷つける人たちの下敷きになるなんてごめんだわ!」
E「無理言うなよ、これも宿命なんだ。」
N「いや!お願い!私を見捨てないで!」
E「我慢しろ。シャーペンには…なるべく鉛筆っぽい筆跡になるよう、
  できる限り斜めに傾いて筆記しろって伝えておく。」
N「ぐすっ…。」
E「ほら、今週が最後の仕事なんだろ?俺はもう明日にでも退職かもしれないんだ。最後まで、頑張ろうぜ。」
N「…うん。」

クルクル パシッ
E「空気読め貴様あああああああああああ!」
N「ぷっ。」

文房具もそれなりに大変なのでした。




 
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