お見合い

結婚相手ないしは恋人を求めて、男女が人を介して会う「見合い」。
今日もそんな素敵な出会いを求めて、一組の男女が都内某所にあるホテルのロビーで巡り会うことになった。
中村浩司、会社勤めのバリバリの若手サラリーマン。好きな単位は「ヘクトパスカル」。
伊東沙希、事務所勤めのジュエリーデザイナー。前世は「くつした」。

この日の天候はあいにくの雨に見舞われてしまったが、午後1時半、約束の時間は無事にやってきた。
スーツ姿のしっかりと決まった中村が、フロント脇から現れる。
あたりを見回してみると、やたらと腕時計に目をやっている女性が目に入った。

中村「あ、伊東沙希さんですか?」
サップ「いえ、私はエチオピアから来日中のサップ。
    時は来ました、さぁワールド腕相撲セミファイナルの開始です。」
中村「激しい人違いだったようです。」
RETRY

超絶的カスプレーをやらかした中村は、再度ロビー全体を見渡す。
するとちょうどそこへ、若い女性が一人入り口からやってきた。
そういえば事前に知らされていた、相手のボルボックスっぽい容姿を彼は思い出し、
しっかりと確認した上で彼は歩み寄った。

中村「伊東沙希さんですか?」
伊東「あ、はいそうです。」
中村「はじめまして、中村です。今日はわざわざありがとうございます。」
伊東「いえ、こちらこそ今日はお忙しいところをすいません。」
中村「いえいえ。えっと…ここの3階に喫茶室があるんです。そこでお話しましょうか。」
伊東「じゃぁ今日の話はなかったことに。」
中村「出鼻をくじかれるとはまさにこれですね。」
決裂度3%

エレベーターの前で待つ2人、早くも20分が経過。

中村「エレベーター、どうして降りてこないんでしょうね。」
伊東「当然ボタンを押してないからですよ。」
中村「いや、ならお前も押せよ。」
伊東「You too.」
中村「Ya.」
決裂度7%

中村「…それにしても、最近は雨が多いのに、今日は晴れてよかったですね。」
伊東「すさまじい豪雨ですけど。」
中村「はは、5日前からここのロビーで寝泊りしてたんで知らなかったなああ。」
決裂度10%

店員「いらっしゃいませ、お二人さまですか?」
中村「いえ、あとから80人ほど遅れて来ます。」
決裂度14%

中村「とりあえず、何か頼みましょうか。何ご注文されます?」
伊東「じゃぁ…うーんと……このチーズケーキセットを。」
中村「あ、それならぼく家から持ってきたんで大丈夫です。」
決裂度19%

伊東「中村さんは、何かご注文されないんですか?」
中村「あ、じゃぁぼくもチーズケーキを食べようかな。」
伊東「ご持参されたやつですね。」
中村「え?あぁあんなのウソですよ。騙される人がいたら大爆笑ですよね。」
決裂度28%

店員「ご注文はお決まりですか?」
中村「はい。彼女にはチーズ、ぼくにはケーキを。」
決裂度34%

中村「伊藤さん、ひとつお聞きしていいですか?」
伊東「はい。」
中村「ご性別は?」
決裂度45%

会話の途切れる2人…気まずい沈黙を切り開いたのは伊東だった。

伊東「…中村さんは、どんなお仕事なされてるんですか?」
中村「…ポン!」
伊東「あの、中村さん?」
中村「あぁすいません、あなたとの会話より一人ジャンケンの方が1000倍楽しかったので。」
伊東「光栄です。」
決裂度50%

中村「えーと、仕事ですか…そうですね、昨年度からはプリンタでコピーしかしてません。」
伊東「へぇ〜、1日何枚ぐらいですか?」
何故か会話が進んだ

中村「うーん、ざっと1万枚ってところですかね。」
伊東「私もコピー大好きなんですよ。」
想定外も甚だしく決裂度38%へ回復

中村「おっ、じゃぁキヤノン社のMP520ってご存知ですか?」
伊東「私の家それ使ってますよ!前後両方から用紙を挿入できるっていうのが魅力ですよね。」
中村「えぇ、用紙はどちらの会社のをご使用ですか?」
伊東「コクヨです。」
中村「えっ…。」
思わぬところで決裂度41%

中村「週末は普段何をされてるんですか?」
伊東「もちろんコピ……ルアックというコーヒー豆を探しに出かけています。」
中村「コーヒー?えっと、コピ…ルアックというのは?」
伊東「イタチのような動物の糞から採られるコーヒー豆です。」
決裂度45%

中村「お出かけというと、ご旅行などはよくされるんですか?」
伊東「そうですね、先日の連休には会社の同僚と九州の方へ行ってきたんですよ。」
中村「おぉ、というと新幹線ですね?」
伊東「いえ、徒歩で。」
決裂度50%

中村「そういえばまだお聞きしてませんでしたが、伊東さんはどのようなお仕事を?」
伊東「都内の事務所でデザイン関係のお仕事をさせていただいてます。」
中村「それより、おでんの具では何が一番好きですか?ぼくはチクワブです。」
決裂度61%

伊東「そうだ、こないだ九州に行ったときの写真があるんでお見せしましょうか。」
中村「え、今お持ちなんですか。」
伊東「あ、携帯の画面だから少し見づらいかも知れませんけど…。」
中村「あぁなるほど、わざわざ携帯カメラを持ってきてくれるなんてyou are ITO。」
伊東「携帯、電話ですよ。」
中村「そんなの一体全体いつ普及したんですか。」
伊東「もう何年も前からですよ。中村さん、携帯電話お持ちではないんですか?」
中村「いえ、電話ってあの、グラハム・ベルが発明したやつですか?」
伊東「そこからですか。」
決裂度67%

伊東「これが長崎のハウステンボスに行ったときの写真です。」
中村「おおおぉぉ!こな小さい絵の中、ヒト4人も入ってマス!」
伊東「いつの時代の人ですかあなた、いきなり片言も意味不明すぎです。」
中村「いやぁ、それにしてもきれいな場所ですね。これが日本だとは思えない。」
伊東「やっぱりそう思われます?ここじゃないと見れない景色ですよねぇ。」
中村「この、ものすごくすさまじくいかにもアイアム原始人みたいな方はどなたですか?」
伊東「私です。」
決裂度76%

中村「それにしても、歩いて九州まで行かれるとは、同僚の方も伊東さんも足腰お丈夫なんですね。」
伊東「え?あぁあんなのウソですよ。騙される人がいたら大爆笑ですよね。」
中村「秀逸な仕返しをくらいましたねぼく。」
決裂度84%

伊東「中村さん、何かご趣味はありますか?」
中村「そうですね…ぼく、3年ほど前からルアーフィッシングに凝ってまして。」
伊東「へぇー、なんだかかっこいいですね。どなたかとご一緒にいらっしゃるんですか?」
中村「えぇ、大学時代の友人とよく休みを利用して地方の渓流へ出かけるんです。
   最近は特にルアーの研究の方にはまってまして。」
伊東「ルアーってあの、餌の替わりに付けるやつですよね?」
中村「そうですそうです。まぁなんといっても渓流魚と自然の緑の対比がとてもきれいなんですよ。」
伊東「素敵ですねぇ。…今度いつかご一緒させていただいてもいいですか?」
中村「えっ?釣りですよ。」
伊東「はい、なんだかお話を聞いていたら私も興味が湧いてきちゃいました。」
中村「あ、だから、釣りですよ釣り。」
伊東「え?」
中村「ぼくの趣味は会話で人を釣ること。おかげさまで今日も大成功です。」
伊東「なるほど。」
決裂度95%

伊東「そういえば中村さん、随分がっちりした身体されてますね。何かスポーツでも?」
中村「今はさすがにもうやってませんが、高校・大学時代にはラグビーやってたんですよ。」
伊東「ラグビーですか!私ラグビー大好きなんです!」
中村「本当ですか!じゃぁ大学の対抗戦とか観にいったことあるんですか?」
伊東「ええ、やはり男性相手だと多少かなわない面もありましたけどね。」
中村「You played.」
決裂度99%

中村「あ、そうだ、ぼく料理得意なんですよ。」
伊東「わぁ、ということはお食事は毎日ご自分でお作りになってるんですか?」
中村「はい、大学を卒業して2人暮らしになって以来は。」
伊東「お二人?ご兄弟いらっしゃるんですか?」
中村「いえ、彼女です。」
伊東「死ぬべきですね。」
決裂度150%

伊東「中村さん、私もう帰ります。」
中村「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
伊東「もう散々です、これ以上何があるっていうんですか。」
中村「あなたの他にあと80人女性の方をお呼びしてるんですよ。」
決裂度∞

伊東は一人店の出口へ向かう。そこへ、レジの店員が彼女に声をかけた。
店員「あなたたちはもう清算済みですよ。」
伊東「的を射た表現ですね、というか清算どうこう以前に注文したメニュー来ませんでしたよ。」
店員「何もかも中村氏の予定通りです。」
伊東「お前らグルかよ。」

伊東・中村の両者が、生涯独身で終えたのは言うまでもない。




 
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