模擬試験 模擬試験。それは大学受験を控える多くの受験生が、 入試本番を想定し、事前に自らの能力を測定するために実施されるテストのことである。 大手予備校などが中心となって全国的に実施するものが多く、 マーク式・記述式といった解答形式の差による違いがあるほか、 特定の大学の入試問題のみを想定して実施されるものも存在する。 受験生たちはのちに返却される成績結果によって、 志望校の偏差値と自らの合格可能性を判定し、勉強の指針とするのである。 この冬に大学受験を控える都立バハムート高校3年生の佐々木俊和は、 国立のヒトシバツ大学社会学部を目指す文系である。 彼は12月の上旬に大手予備校「伐々木ゼミナール」によって実施される記述模試に備え、 秋になってから毎日8時間シャーペンのメンテナンスを怠らず続けてきた。 今回の模試で受験する科目は「英語・数学・国語・地理」の4教科である。 試験当日の朝、彼は新品のヘアワックスを1ケース使い切ってスーパーサイヤ人級に髪形をセットし、 受験票はもちろん、各教科ごとに選抜した参考書・ノートをバッグに詰め込み、家を出た。 しかし例のシャーペンは入れ忘れていた。 試験会場に到着して間もなく、その事実に気付いた俊和は直前の勉強もままならなくなったため、 教室内にいる受験生に「今朝何食べた?おれパン」と手当たり次第に声をかけていた。 午前9時ちょうど、1科目目である英語の試験開始のチャイムが鳴り響き、 俊和は予備用に持ってきたシャーペンを右手に問題用紙を開いた。 俊和「所詮イングリッシュ!敵には及ばん!」 【問題】日本文にあうよう ( ) 内の語句を並べ替えて正しい文を答えなさい。 (1)トムがジョンに渡したのは何だったのですか。 ( I / don't / know ). 俊和「勝手に対話し始めやがった。」 (2)その国の労働人口の約45%は女性である。<1語不要> ( the country's / women / workforce / of / for / 100% / 45% / account / about ). 俊和「不要な1語が明らかすぎる。」 (3)予想通り、誰もボブの提案に賛成しなかった。<ボブ不要> ( agreed / as / expected / Bob / no one / to / was / what ) had proposed. 俊和「ボブがくそ可哀相なんだけど。」 【問題】内容から判断して、[ A ]と[ B ]に入ると考えられる語を答えなさい。 解答について、[ A ]は2語、[ B ]はイチゴでよい。 俊和「なぜにストロベリー。」 【問題】次の英文(1)〜(10)の下線部には文法・意味・語法などの誤りが1つあります。ごめんなさい。 俊和「謝罪されてしまった。」 俊和「よし、次が最後の長文問題だ。心情表現を中心に読み進めるのがポイントだったよな。」 【問題】下線部(4)には祖母のどのような気持ちが表現されているか。 それを指す語として最も適切なものを次のうちから選び、記号で答えなさい。 ア angry イ very angry ウ too angry エ extremely angry 俊和「ばあちゃんどんだけキレてんだよ。」 【問題】下線部(6)を和訳せよ。ただし、sheが誰を刺すのかを明らかにすること。 俊和「おれを殺人の共犯にしないでくれ。」 【問題】下線部(7)の意味を下の選択肢から選び、記号で答えなさい。 ア.イに書いてある内容 イ.エに書いてある内容 ウ.アに書いてある内容 エ.ウに書いてある内容 俊和「何この無限ループ。」 得意だったはずの英語を思うように解けずに終えてしまった俊和だが、 ここは受験生の精神面の見せどころ。彼は気持ちを切り替えて次の数学に挑むことにした。 俊和「数学は苦手だけど…。ん、最初は確率か。」 【問題】赤玉4個、白球3個、青球2個が入っている袋から4個の玉を取り出すとき、 取り出される4個の玉について、次の確率を求めよ。 (1)黒玉が出る確率 俊和「黒玉入ってないよな。」 (2)ドラゴンボールが出る確率 俊和「だから無いよな。」 (3)(2)でドラゴンボールを引き当ててフリーザが怒る確率は530000% 俊和「こいつら本当に問題作る気あんのか。」 【問題】△ ABC の頂点A、Bと重心Gの座標がそれぞれ A(-3.-5)、B(9.4)、G(-2.2)のとき、 頂点 C の座標は (12、7)になるのだけは教えといてやる。 また△ ABC はどんな形の三角形かというと…そうだよ、∠ A を直角とする直角二等辺三角形だよ!!! 俊和「何で怒ってんの。」 【問題】2直線 ax-(a-2)y=a、(a+1)x+2ay=2 が次の関係を満たすとき、定数aの値を求めよ。 (1)恋人 俊和「どんな直線だ。」 (2)互いに激しく巻き付き合う 俊和「直線だったと思うんだけど。」 (3)高校時代同じクラスだったが、 卒業後に街中ですれ違うと挨拶しようかどうか迷う微妙な関係 俊和「知るかよ。」 俊和「関数と方程式が終わって…後半は図形問題か。よし!」 【問題】△ABCの内部の点Pが以下のベクトル 5PA + 2PB + 3PC = 0 を満たしているとき、 (1) 閉ざされし扉は開かれるであろう 俊和「いきなりRPGになった。」 (2) そして閉まるであろう 俊和「なんかうざい。」 【問題】座標空間内にO(0.0.0.)、A(3.4.-1)、B(-1.2.2)、C(5.0.4)を頂点とする四面体がある。 (1) △OAB の面積を求める理由を求めよ。 俊和「何この壮絶ハイレベルな問題。」 (2) C から平面 OAB に下ろした垂線の足 H のサイズを求めよ。 俊和「解答が26.5cmとかだったらどうしよう。」 (3) 四面体 OABC は住むのにちょうどいい大きさです。 俊和「ご提案ありがとうございます。」 苦手な数学の試験を終え、会場は50分間の昼休みとなった。 受験生たちはここで昼食をとったり、午後の試験に備えて参考書を読んだりする。 しかし実は彼らにはその前にすることがある。そう、「受験カード」というものの提出だ。 これには、成績判定の際に必要となる、氏名・受験番号・志望校のコード番号などをマークする。 試験監督「受験カードの提出を終えた方から、昼休みにしてください。」 俊和「あれ…ヒトシバツ大学のコード番号が見当たらないな。どこだろ。」 10分が経過した。 俊和「今度は併願する私大のコードが無い!一体どこに隠れてやがる!出てこい!」 30分が経過した。 俊和「おっと、マーク番号が全部1つずつずれていますね。」 昼休みは終了した。 午後の1科目目は国語。俊和は記述の解答を書くのにかなり時間を要してしまうタイプなので、 ここではまさに時間との勝負になることは目に見えていた。 俊和「現代文から解こう。焦らず、着実に。そして素早く。」 【問題】傍線部@〜Dのカタカナを漢字で思い出しなさい。 俊和「何で書かかせてくれないんですか。」 【問題】本文には次の一文が抜けている。この一文が入るべき個所の直前の一文の、 終わりの五文字を抜き出しなさい。ただし、記号・句読点しか含まない。 俊和「解答が暗号と化したんだけど。」 【問題】傍線部オ「世界がすべて今の、日本語に混じる世界となった」とあるが、 どういうことか、文中に述べられている筆者の体験を自ら体験し、 10秒以上12秒以内に述べよ。(句読点も1秒として数える) 俊和「解答条件が過酷すぎる。」 俊和「次は古文か。最近あんまりやってなかったけど…解けるかな。」 【問題】傍線C「えあえで」、E「うちも寝ななむ」を 現代語訳するだけで満足してしまうような貴様にこの問題の解答権はない。 俊和「解かせてすらもらえなかった。」 【問題】次の我が国の文学史に関する文章を読み、 (ア)〜(コ)に当てはまるものを次の中から選び、記号で答えなさい。 1 新勅撰和歌集 2 新古今和歌集 3 古今和歌集 4 千載和歌集 5 とりかへばや物語 6 ホ−ムレス中学生 7 源氏物語 8 讃岐典侍日記 9 土佐日記 俊和「どこかに妙な違和感を感じるんだけど。」 俊和「あとは漢文だけだ!試験終了までに間に合うか…。」 【問題】傍線部2の「安」の読み方として最も適当なものを、 次のア〜オの中から選び、記号で答えなさい。 ア あん イ あぁん ウ あああぁぁぁん!! エ あ?ん? オ あっ…ん 俊和「出題者ちょっと出てこい。」 【問題】「其未立見」をすべて平仮名の書き下し文にあらためよ。さん、はい! 俊和「そんな掛け声いらないから。」 出題意図が全くをもって不明な問題と対峙しすぎたせいか、 最終科目の地歴を目前に、俊和の集中力はもはや限界に近付いていた。 俊和「いや、最後の最後まで力を振り絞ろう。 地理なんて大半は記憶で解けるんだから、気力でペンを動かすしかない!」 【問題】2004年、EUに新規に加盟した国名を書くついでに全世界の国名も書きなさい。 俊和「いきなり記憶力の限界に到達した。」 【問題】アフリカの民族や文化について述べた文として 「適当でないように見えるが実は適当であるフリをしているだけのお茶目なもの」を、 次の@〜Cのうちから一つ選べ。 俊和「そんな識別できるわけない。」 【問題】ガンジス川流域では、米作が広く行われているが、 この地域の米作は3つのタイプの異なる災害を受けやすい。それらの災害を呼び起こせ。 俊和「おれは神か。」 俊和「地誌の問題は終了!あとは系統の問題との勝負だ!」 【問題】表2を参考にして、我が国の水産物供給の特徴について下記の語句をすべて用いて、 120字以内で述べよ。語句は繰り返し用いてもよいが、例のモノを用意すること。 俊和「何この収賄的な雰囲気。」 【問題】ミトコンドリアの断面の模式図を描き、 クエン酸回路の反応が起こる場所を図中に矢印で記しなさい。 俊和「これ20000%地理の問題じゃないよな。」 【問題】今すぐブラジルへ行け。 俊和「無茶も大概にしろ。」 試験監督「試験終了です。鉛筆を置いてください。」 こうして、とうとう最後の科目の試験時間は終わりを迎えた。 試験監督が解答用紙の回収を行う音とともに、 受験生たちのため息や、試験に対する感想・文句が教室内を一気に駆け巡り始めた。 一刻も早く荷物をまとめて会場を後にする者、 机に突っ伏たままの者、出来の良さを喜ぶ者や嘆く者など様々な姿が見受けられる。 そんな中彼はというと、もはや思考回路がショートしきって混乱していた。 俊和「ネクストステーションイズ、新宿。ザドアー、オンザレフトサイド、ウィルオープン。」 そしてそれから1ヵ月が経とうとしたある日の学校の昼休み、 模試の成績結果が、クラスの担任によって受験した生徒たちへと返却された。 俊和「あぁ…どうかいい結果でありますように。」 担任「佐々木。」 俊和「はい。」 彼はそそくさと自分の席に戻り、周りに見えないようひっそりと成績表を開いてみたところ、 そこにあったのは「N」という文字の羅列だった。 俊和「あの、先生、判定結果のNってどういう意味ですか。」 担任「判定不能、だ。」 受験番号は受験票を見て正確に書き写しましょう。 ↑良かったら投票してやってください↑ |
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