面接3

一部の大学においては、入学試験に面接という科目が存在する。
短い時間ではあるが、その場で受験生の人間性を問い、
より教養深い学生を入学させたいという大学側の狙いが伺える。
この冬もまた、そんな季節がやってきた。

都立・校舎は正四面体型高校3年生の「浅井祐一」は、
某有名私立大学の法学部を目指す大学受験生である。
私立大学にしては珍しく、この大学では面接試験が重要視されているため、
彼は1年間のつらい受験勉強に耐え、予想される質問内容を満遍なく整理した上で、
木枯らしの吹く2月中旬に入試本番を迎えた。

午前中にあった英語と地歴の試験をなんとか済ませた彼は、
午後に控える面接までの休憩時間を、ずっと自分にデコピンしまくりながら過ごした。
14時08分、とうとう彼の番はやってきた。

面接官「次の方どうぞ。」
ガチャ ガッ
祐一「ドアが開きません。」
面接官「これにて面接を終了します。」
祐一「ひどすぎます。」

面接官「申し訳ありませんが、後ろのドアから入ってきてください。」
祐一「わかりました。」
ガチャ
面接官「お手数おかけしました、では前のドアから出て行ってください。」
祐一「ぼくの1年間を返してください。」

面接官「お名前と在卒高校名をお願いします。」
祐一「浅井祐一です。都立・校舎は正四面体型高校3年生です。」
面接官「正四面体の体積を教えてください。」
祐一「初っ端から想定外の質問炸裂でもう死にそうです。」
減点3

祐一「冷静に考えると、今の質問による減点はきわめて理不尽だと思います。」
面接官「数学で、座標の基準となる点の名前は?」
祐一「原点。」
減点12

面接官「早速ですが、この大学・学部を志望した理由を教えてください。」
祐一「志望理由を話すのはあなたが初めてです。」
面接官「そうですか、光栄です。ではどうぞ。」
祐一「今から話すことを、ぼくと2人だけの秘密にしてくれますか。」
面接官「原則的には秘密事項ですが、保障はしかねます。」
祐一「いえ、約束してください。心の中にそっとしまっておくと。」
面接官「わかりました、誰にも言わないと誓いましょう。」
祐一「では言いますよ。」
面接官「はい。」
祐一「大好きです。」
減点20

面接官「将来ここで学び、どのような方向に進みたいですか?」
祐一「右上です。」
面接官「よくわかりません。」
祐一「まっすぐです。途中で迷うことはありません。」
面接官「抽象的すぎです。もっと具体的にお願いします。」
祐一「y=2x。」
減点54

面接官「あなたの高校の特徴を教えてください。」
祐一「校舎の形が著しくキモいです。」
面接官「それは先ほど伺いました。」
祐一「別のですか、そうですね…うーん…あ、そうだ。
   先ほど廊下ですれ違った人が、ぼくに思い出すことを可能にさせました。」
面接官「露骨なenableを感じますがナイス連想力です。是非聞かせてください。」
祐一「その人が着けていたネクタイとそっくりの色をしたオブジェが、校庭の隅にあるんです。
   オブジェの形はともかく、その色が空前絶後でセンスが無いのです。
   もうひどすぎて話にもなりません、見てると吐き気がします。クソです。」
面接官「このネクタイのことですか。」
祐一「それです。」
減点150

面接官「午前中に受けてもらった、英語の試験の自由英作文について質問します。
    解答用紙を見させてもらったところ、
    あなたはこのテーマに関して賛成のようですが、理由を教えてください。」
祐一「書いてあんだろそこに。」
減点98

面接官「次の方どうぞ。」
祐一「ぼくまだ面接中だと思うんですけど。」

面接官「この1年間の受験勉強生活で、途中つまづいたことはあれば教えてください。」
祐一「はい。模試の英語の成績が思うように伸びず、
   どう勉強を進めればいいかわからなくなったことがありました。」
面接官「なるほど。それで、何か解決の糸口は見つかりましたか。」
祐一「塾の英語の先生に相談することにしたんです。」
面接官「何かいいアドバイスはもらえましたか。」
祐一「お前は日本人だろと言われました。」
塾講師の評価減点1000

面接官「高校時代に頑張ったことを教えてください。」
祐一「はい。ぼくは高校3年間、『テニス部見学部』主将を務めていました。」
面接官「もう一度お願いします。」
祐一「テニス部見学部です。」
面接官「活動内容を教えてください。」
祐一「テニス部の見学です。」
減点22

面接官「インターハイなどの大会はありましたか。」
祐一「はい。昨年の5月の『全国高等学校テニスウォッチャー選手権大会』に参加しました。」
面接官「全国規模で行われているとは知りませんでした。戦績を教えてください。」
祐一「なんとか最後まで健闘し、準優勝の快挙を収めることができました。」
面接官「それはすごいですね。参加校はどのくらいだったのですか。」
祐一「2校です。」
面接官「ただの最下位ですね。」
減点85

面接官「あなたの短所を教えてください。」
祐一「そんなのありません。」
減点87

面接官「高校時代のあなたについて、もう少し詳しく教えてください。」
祐一「長所聞けよ。」
減点2

面接官「もう一度お聞きします。高校時代のあなたについて、もう少し詳しく教えてください。」
祐一「プライバシーの侵害です。」
面接官「勘違いしないでください、この程度ではまったく侵害にはなりません。
    仮にも、ここは面接試験の場だということを忘れないでください。」
祐一「ふふっ、それなら納得してあげちゃおっカナ!」
面接官「わかっていただければいいんです。では高校時代についてどうぞ。」
祐一「17歳ぐらいでした。」
面接官「そろそろ私もキレますよ。」
祐一「ぼくもです。」
減点200

面接官「尊敬する人は私ですか。」
祐一「何故イエス・ノーの2択なんだ。」
面接官「尊敬する人は私ですか。」
祐一「いいえ。」
減点30

面接官「最近読んだ本を教えてください。」
祐一「ではA〜Eのうちから好きなものを選んでください。」
面接官「不可思議すぎる展開についていけません。」
祐一「本にはジャンルというものがあるでしょう。
   だからまずあなたにジャンルの選定をしてもらおうというわけです。」
面接官「なるほど。では…『C』でお願いします。」
祐一「わかりました。」

2分後

祐一「検索が終了しました。該当書数は102冊。」
面接官「おお、そんなにたくさん。」
祐一「あればいいなと思ってます。」
減点500

面接官「ところで『C』は何のジャンルだったんですか。」
祐一「コーランです。」
面接官「あなたイスラム教徒だったんですか。」
祐一「イエス。アッラーは唯一の神、ムハンマドは神の使徒。」
減点90

面接官「っていうかコーランは本の『ジャンル』ではありませんよ。」
祐一「イエス。アッラーは唯一の神、ムハンマドは神の使徒。」
減点200

面接官「現在の日本の経済状況について、あなたの思っていることを教えてください。」
祐一「質問内容が難しすぎてbeyond the reach of my imagination。」
面接官「正直ですね。では、今の日本のお金の流通状況について、ならどうですか。」
祐一「今度はわかりやすすぎて笑ってしまいそうです。ぷっ。」
面接官「それはよかった。この金融恐慌の中、確固とした視点を持つのは大切ですからね。」
祐一「なるほどなるほどなるほど。あぁなるほどなるほどなるほど。」
面接官「ではどうぞ。」
祐一「2000円札は要らないと思います。」
減点670

面接官「最後に、あなたが『法』の概念に対して抱いているイメージを教えてください。
    もちろん、漠然としたもので全然かまいません。」
祐一「数学的帰納法。」
面接官「殺意すら芽生えてきました。」
祐一「n=k のとき、(*)が成立すると仮定します。」
面接官「さすがにここまでくると、減点も過激になりますよ。」
祐一「ほう。」
減点30000

面接官「1週間後に届く不合格通知についてどう思いますか。」
祐一「既に合否決定済みなんですね。」

こうして彼は浪人生活へと突入するのであった。




 
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