実力考査

今日は「私立・でも実は県立なの見栄張ったごめん高校」の第1回実力考査の日である。
実力考査というのは、定期試験とは違い試験範囲も特に指定されず、
あくまで生徒自身の実力を測るために設けられたテストのことである。

3年生の小林啓祐は文系の国立大学を志望しており、
夏休み明けのこの実力考査に備え、7・8月を死ぬ気で勉強して過ごした。
彼は地理選択であり、この2ヶ月間で農業・工業・アメリカやアフリカの地誌に代表される
出来る限りの範囲を勉強し尽くし、現役生ながらもはや彼に敵はなかった。

しかし彼の志望する大学の受験科目に地理はなかった。

あまりの衝撃の事実に落胆の色を隠せかった啓祐は、
実力考査の前日に京都清水寺に赴き、ひも無しバンジーを試みていた。

落下途中、「そうか、日本史なら2年生のときに勉強してたんだ!いける!」
という科目変更に気づいて笑顔をとりもどし、無傷で東京へ生還した。

翌日、彼はシャーペン1本と消しゴム1個をもって登校した。
実力考査は2日間に渡って実施され、初日である今日の科目は「英語・数学・倫理」であった。

チャイムが鳴る。監督教師が開始の合図を放った。

啓祐「第1問は長文問題か、任せろ!」

【問題1】下線部@の訳語として最も適切なものを、「国語」第2問(3)の選択肢より1つ選び、記号で答えよ。
啓祐「いきなり教科の枠を超えるなんてトランスナショナル」

【問題4】下に与えられた語を適切な順に並び替えて空所(4)を埋め、
     その2番目と5番目にくる単語を答えよ。ただし、下の語群には不要な語しか含まれていない。
啓祐「何をさせたいんだ。」

[語群] にんじん 福田康夫 腕時計 サテライトキャノン ブラジル (笑)

啓祐「最後の選択肢が異常にむかつく。」

啓祐「次は文法問題か、ちょろいぜ。」

【問題2】次の英文(1)〜(5)の空所に入れるのに最も適切な語句を、
     ア〜エより1つ選び、記号で答えよ。
     (1) The researh carried out in the Antarctic (  ) almost every field
        of scientific study, from climate history to population studies.
      ア よく考えるんだ。           イ そうすれば答えは必ずわかる
      ウ …あきらめるのかよ。         エ もういい、勝手にしろ!
啓祐はこのページを破り捨てた。

アナウンス「これから、リスニングテストを始めます、8ページを開いてください。」
啓祐「あっ、やべ、リスニングあったんだった。」

アナウンス「これから放送される対話を聞いて、次の設問…。」
啓祐「毎回思うんだけど、この前書きの説明聞くのだるいんだよな。」
アナウンス「…では、はじめます。」

スクリプト「Hi, This is Tonny ! How do you do, Keisuke Kobayashi ?」
啓祐「今俺呼ばれなかった?」

スクリプト「Oh…, you can't speak English ? Well, OK. See you next time, Keisuke.」
啓祐「え?え?俺のせい?ちょ、待っ」

リスニングテストは終了した。

啓祐「なんでリスニングテストで俺が…、ん、最後の問題は英作文か。」

【問題A】日本から来た留学生Takeshiのことで、MikeとKateが話している。
     MikeはTakeshiが嫌いで、KateはもっとTakeshiが嫌いである。一刻も早くTakeshiを日本に帰国させよ。
啓祐「そんなミッション…俺に任すなよ。」

【問題B】もしあなたが異国の地に旅をするとしたら、そこで何をしたいと思うか。
     叙情的表現を交えながら25000語程度で書き、出版せよ。
啓祐「まさかの小説家選抜。」

英語の試験は80分で終了し、15分間の休憩時間となった。
啓祐はトイレに行くがてら、クラスの友人に英語のテストの出来を尋ねてみた。

啓祐「お前、最後の英作文どれぐらい書けた?」
友人「3巻まで続編書いた。」
啓祐は無言でその場をあとにした。

2時限目は数学だ。
文系の生徒であっても、国立や特定の私大の場合は数学が必要となる大学もある。
啓祐の受ける大学では、数学がなかなかの強敵科目だった。

啓祐「最初の問題は…三角関数か、よし。」

【問題1】0≦θ≦πのとき、y=2sin2θ+4(sinθ-cosθ)-1 について、次の問に答えよ。
     (1) sinθ-cosθ=サイキックオランウータン とおいて、
        yをサイキックオランウータンの関数で表せ。
啓祐「置き換えても逆に混乱するぞこれ。」
     (2) yの最大値と最小値は求めることができない。
啓祐「できるだろ。」
     (3) お願いだからもうそれ以上何もしないでください。
啓祐「いったい俺が何した。」

【問題2】変数x、yが x≧0、y≧0、x+y≦6 を満たすとき、
     z=(x-2)(y+3)の最大値と、最大値を与えるx、yの値からイメージされる
     20年後の世界経済が目指す理想形態をデッサンせよ。
啓祐「想像力の限界に達しました。」

【問題3】△ABCにおいてAB=CD=1、∠B=60°、∠C=90°、とする。
啓祐「辺が4つある気がするんだけど。」
     △ABCとは異なる点P、Q、Rがそれぞれ辺BC、CA、AB上にあり、
     △PQRは正三角形であるとする。このとき次の問いに答えよ。
    (1) △PQRは直角三角形であることを示せ。
啓祐「さっそく問題文と矛盾してやがる。」
    (2) BP=xとしたあと、どうすればいいかわからなくなった。
啓祐「お前の感想文の需要はない。」
    (3) △PQRの面積Sをxを用いて表せ。
       また、Sの最小値とそのときのxの値を覚えておいてほしい、いつまでも。
啓祐「任せろ。」

【問題4】5個のオバマ大統領候補を3個の皿に盛り分ける。
     次の場合に、それぞれ何通りの盛り分け方があるか。
啓祐「なんだかすさまじい作業してる気がするんだけど。」
     (1) 5個が全て同種のもので、皿がない場合。
啓祐「盛り分けられないだろ。」
     (2) 5個全てが同種のもので、オバマがバマーオじゃない場合。
啓祐「まず設問文を解読できない。」
     (3) 5個すべてが相異なるもので、3個のオバマに区別がない場合。
啓祐「クローンかよ。」
     (4) 5個すべてが相異なるのであればオバマ!
啓祐「消えろ。」

次の倫理は、啓祐にとってはセンター試験でのみ使用する科目だ。
センター試験は全問マーク式の問題であるため、
それを踏まえ、啓祐のような受験生を対象とした問題はマーク式に統一されている。

啓祐「はぁ〜、倫理なんてまだ全然勉強してないよー…。」

【問題1】下線部Cに関連して、青少年の進路をめぐる近年の状況の記述として適当なものはAしかない。
啓祐「わかった。」

カチャッ コロコロ…
啓祐「あ、やべ…シャーペン落としちゃった。…うは、今日1本しか持ってきてないとか俺度胸ありすぎ。」
試験中なので自ら立ち上がって取りに行くわけにはいかない。
啓祐は仕方なく手を上げ、監督教師を呼び寄せた。

教師「どうした?」
啓祐「シャーペン落としちゃったんで…あそこです。すいません。」
教師「なるほど…。君が落としたのはこの金色のシャーペンですか、それともこのドス黒いシャーペンですか?」
啓祐「いえ、あの…普通にそこに落ちてるグレーのやつですけど。」
教師「正直者にはクレヨンを授けましょう。」
啓祐「超困るんだけど。」

啓祐は座ったまま監督教師のヒザにローキックをかましてねじ伏せ、
なんとか無事にシャーペンを手元に戻すことができた。

啓祐「さて…集中集中。今日はあと一息だ。」

【問題4】次の各設問の、[ 1 ] 〜 [ 12 ] に入れるのに最も適当なものを、
     それぞれの@〜Cのうちから一つ選べ。
     (3) 世界の成り立ちを神話によって解釈するのではなく、
        人間のロゴスによって万物の [ 1 ] を探求しようとしたことが、
        ギリシアにおける哲学の発祥をなしている
      @ 【問題2】へ            A 【問題3】へ
      B 【診断結果A】へ           C 【診断結果D】へ
啓祐「占いかよ…最後どこにたどり着くんだよ…。」

【問題11】ところでこれ何の試験?
啓祐「こっちが聞きたいぐらいだ。」

【問題12】「倫理」に決まってんだろwwwwwwww
啓祐は問題用紙をゴミ箱へ投げ捨てた

想像を絶する難易度の初日3科目をなんとか耐え抜いた啓祐は、
翌日の日本史に備えて年代などの大まかなチェックをすませ、
体調管理のため早めに床に就くことにした。

啓祐「1575年…長篠の戦い…1580年…石山戦争開始…ぶつぶつ。」

そしてとうとう翌朝、「化学・日本史・国語」の
後半3科目との戦いの火蓋が切って落とされた。

啓祐「化学もセンターだけで使う科目だから、マーク式なんだよな。よし。」

【問題2】次の@〜Cのうちから、
     液体の混合物を各成分に分けるのに最も適切な操作を一つ選べ。
      @ とりあえず飲んでみる      A ホットにしてみる
      B 角砂糖を入れてみる        C これはうめぇwwwww
啓祐「自己完結系の問題文が多いな。」

【問題5】正確に10倍に薄めた希塩酸10mlを、0.10mol/lの水酸化ナトリウムで滴定したところ、
     中和までに8.0ml要するはずだった。薄める前の希塩酸の濃度は何mol/lか。
     予想に反して実験が全然上手くいかなかったので、
     次の@〜Dのうちから、合ってそうな数値を3つほど選べ。
啓祐「そこは実験やり直せよ。」

【問題10】ヨウ素の性質に関する次の記述@〜Dのうちから、誤りを含むものを一つ選べ。
      @ 違う!俺は間違ってない!    A 俺が正解に決まってるだろ
      B @はウソついてるよ       C さあ私を選ぶがいい
      D ヨウ素は、水によく溶ける。
啓祐「はいDね。」

【問題16】次の記述(a,b)中の、[ 1 ]、[ 2 ]に当てはまる化合物を、
     下の@〜Eのうちから一つ選べ。ただし、同じものを繰り返し選べ。
啓祐「強制繰り返しとか聞いたことない。」
     a エタノールが好きだから今日の夕飯は [ 1 ]にしよう。
     b 今日の1時限目の授業は、ぼくが得意な [ 2 ] の燃焼だ。
      @ エタノール    A エタノール    B エタノール
      C エタノール    D エタノール    E エタノール
啓祐「どんだけエタノール好きなんだ。」

マーク式の割には手ごたえのある問題ばかりで、
不覚にも啓祐は60分前の意気込みを落としてしまった。
だが次の科目は、文系選択者の勝負どころとなる地歴である。
彼は気合を入れるために、クラスメート全員に自分の顔を全力で殴ってもらった。

啓祐「いざ勝負だ日本史!ここで負けるわけにはいかないぜ!」

【問題5】下線部Dに関連して、律令制の土地制度について述べた文として正しいものを、
     次のア〜エのうちから一つ選べばその時点で私の勝利は確定する。
啓祐「もうさっそく敗北させられそうだ。」

啓祐「次は近世か。」

【問題2】80字以内で述べよ。
啓祐「何を。」

【問題6】次の人物のうち、田沼意次の命により「蝦夷地を探検」したのは誰か。
     ア〜オのうちから一つ選べ。
      ア 俺   イ お前   ウ 大好き   エ 結婚   オ 要求
啓祐「なんかよくわからんが断る。」

【問題10】江戸時代の開発とそれをめぐる国内外の事情に関する次の文章を読んで、
     以下の問1,2,3・・・n (nは自然数)で表される数列{an}において、
     隣接する2数の積の総和を求めよ。
啓祐「いや待ていきなり数学になったぞ。」

啓祐「最後は近代…いや、戦後・現代史か。まだ全然手付けてないから無理だわ。」

【問題18】昨日の実力考査1時限目の「英語」において、第3問(4)で求められていた内容を30字以内で説明せよ。
啓祐「いくらなんでも最近すぎる。」

相当の気合を入れて挑んだ日本史にも面白いように圧倒され、
啓祐のもはやテンションは地獄の底へと落ちてしまった。
しかしまだ最後の国語が残っている。主要3教科のうちの一つであり、
多くの文系生徒にとっては重要な点の稼ぎどころである。

啓祐「…最後まであきらめないのが大切なんだよな。
   よし、最初の現代文から全部満点とってやるぜ!」

【問題6】傍線部エ「近代科学自体に世界観としての原罪がある」とあるが、
     なぜそのように言えるのか。筆者に聞いてこい。
啓祐「マジかよ。」

【問題3】傍線部イ「それで、どうだったの?」とあるが、
     ここでの「わたし」の心情を説明したものとして
     最も適切な顔文字を次のア〜オ中から一つ選び、記号で答えよ。
      ア (´・ω・`)ショボーン    イ ( ´_ゝ`)フーン    ウ (゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャ
      エ (゚Д゚ )ゴルァ!!      オ キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
啓祐「なんて現代的な問題なんだ。」

啓祐「あとは古文漢文で終わり…簡単だといいなぁ。」

【問題2】点線部A「聞こし召し」、B「参らせざりけれ」、C「見」は、
     それぞれ誰の動作か。次の中から最も適切なものを選んで、記号で答えよ。
      ア 殿上人たち    イ 殿上人たち    ウ 殿上人たち
      エ 殿上人たち    オ 殿上人たち
啓祐「殿上人の自作自演としか考えられん。」

【問題7】もう面倒だから問題文すべてを現代語訳せよ。
啓祐「むちゃくちゃだ。」

啓祐「最後は漢文、これで終わりだ!」

【問題5】傍線部D「所以入秦者」とあるが、「ビャウォヴィエジャ・プーシュチャ」と読む。
啓祐「絶対ウソだろ。」
     この読み方に従って、解答欄の原文に返り点を付けよ。
     送り仮名が不要であるどころか解答までもが不要。
啓祐「じゃぁ次の問題いく。」

【問題7】実力を発揮せよ。
啓祐「さすがは最終問題だけあって難易度が半端じゃなかった。」

こうして奇問・悪問の猛襲をくぐり抜けた啓祐は今にも死にそうであったが、
試験終了後、担任教師のもとへ今回の試験問題について文句を言いにいった。

啓祐「先生、なんですかあの問題は!解けるわけないじゃないですか!」
担任「Oh!Keisuke Kobayashi!I'm happy to talk with you again !」
啓祐「お前があのリスニング担当者か。」

来春、彼が無事に大学へ進学できることを祈る。




 
↑良かったら投票してやってください↑

BACK
inserted by FC2 system