ファミリーレストラン2

浪人生である「浅井祐一」は勉強をするため、
わざわざ近所のファミレスである「ジョナニーズ」へやってきた。
彼の自宅では常に母親と妹がスーパーファミコンのストリートファイターUで対戦をしており、
キャラが技を繰り出す度に彼らが奇声を発するため、とても勉強に集中できないのである。

外から店内を覗いてみると、お昼時にもかかわらず客が少ないので、
祐一はやっと自宅の騒々しさから解放された喜びとともに入り口へ向かった。

自動ドアが開かない。

いきなりの障害に不快感を覚えた祐一は自動ドアを軽く蹴飛ばした。
すると奥から店員がやってきてドア越しに言った。
店員「合言葉は?」
祐一「何の話ですか。」
店員「何でもいいからどうぞ。」
祐一「オシムジャパン。」
ウィーン
ドアは開いた。

店員「お煙草はお吸いになりますか?」
祐一「はい。」
店員「禁煙席へどうぞ。」
祐一「いじめですか。」

店員「こちらがメヌーなります。お決まりになりましたらそちらのハーモニカでお知らせくだぴょん。」
店員の「メニュー」という発音、何故ハーモニカなのかなど様々な疑問があったが
祐一はあえて突っ込みを入れなかった。何かが恐かった。

メニューを開いて一呼吸、やっと味わえたくつろげる空間に祐一は感動に近いものを得た。
ちょうど時計は12時半を指していたので、彼は勉強のついでに昼食をとることにした。
メニューの表紙には【秋の味覚御膳】というものが載っており、祐一は見た瞬間これを注文しようと決めた。
料理の内容は、写真を見る限りではキノコやら旬の魚やらでいかにも食欲をそそる。
祐一はどぎまぎしながらもハーモニカを手に取り、吹いた。

ピー パー プー

店内にいる人間の視線が全てこちらに集まる、店員が寄ってくる。
店員「他のお客様のご迷惑になるような行為はしないでください。」
祐一「いやしかし、さっき別の店員の方にハーモニカを吹けと言われたんですよ。」
店員「そんな分別のない行為をお客様にさせるわけがありません。」
祐一「はぁ?じゃぁなんでここにハーモニカがあるんだよ。」
店員「おい、精神科医を呼んで来い。」
祐一「ちょ、待てよ!聞けよ!何なんだお前ら!」
店員「私達は片方の翼しかない天使です。そして互いに抱き合って初めて飛ぶことができるのです。」
祐一「!」

祐一はここへやってきた本来の目的を思い出し、数学の問題集を開いた。
先ほどの店員とのやり取りで脳がうまく働かないが、さすがは浪人生、自然とペンが動き始める。
店員「そこ違うよ、問題文にx≧0って条件あるだろ。」
店員「それじゃ場合分け足りないんじゃね?」
店員「バカ、そこはxとyの2変数関数だろどう見ても。」
店員「あーそれじゃ解けねーよ。」
祐一は問題集を閉じた。

注文した秋の味覚御膳がテーブルへやってきた。
店員「秋の味覚御膳になります。」
祐一「どうも。」
店員「それだけ?」
祐一「えっ?」
店員「言う言葉はそれだけなの?」
祐一「は?」
店員「さよならくらい言ってくれたっていいじゃない!祐一さんのばか!」
店員は涙を流しながらテーブルを去った。

どうして自分が彼に「さよなら」と言わなければならなかったのか、
何故やつは自分の名前を知っていたのか、そして彼はオカマなのかと無数に疑問が浮かんだが、
祐一はその疑問を誰に尋ねていいか分からなかった。

秋の味覚御膳の中にあった火薬ご飯はどうもダイナマイトの味がした。

祐一「すいません、メニューもらえますか。」
店員「どうぞ。」
祐一はメニューのデザートの欄を見て、数秒眺めて紅茶を頼むことした。
祐一「紅茶を1つ。」
店員「単位ちがーーーーーーーーーーーーう。」
祐一「どうでもいいこと気にするんだな、じゃぁ紅茶を1杯。」
店員「紅茶を50リットルですね、かしこまりました。」
祐一「そのいっぱいじゃない。」
店員「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
祐一「もういやだ。」

祐一はこれまでの店員の謎の行動の数々が頭の中を巡りに巡って、
とても勉強に集中するなんてことはできなかった。そこへまた店員がやってきた。
店員「…幸せを、注文してみたらどうですか。」
祐一「もうやめてくれ、俺に話しかけないでくれ。」
店員「幸福だから笑うわけではない。むしろ、笑うから幸福なのだと言いたい。」
祐一は不覚にもこの言葉に感化されてしまった。

店員に人生の幸福を見出す方法を教えてもらい、受験勉強に改めて熱が出てきた祐一は、
あの自宅という恵まれない環境の中でも勉強をして努力を続けることを誓った。
なので彼はすぐさまファミレスをあとにすることにした。
店員「1380円になります。」
祐一「やべ財布忘れた。」

彼が家に帰ることは二度となかった。




 
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