ファミリーレストラン

会社員である「池野正男」は、明日が提出期限の報告書を効率よく仕上げるため、
近所のファミレスである「ロイヤルガスト」へやってきた。
家で仕事をしようと思っても、
飼っているカンガルーが騒いで書類をズタズタにしてしまうのでサッパリ進まないのだ。

ウィーン
自動ドアが開き、正男の姿を見て店員が近寄ってきた。
店員「団体様ですか?」
正男「どう見ても俺1人しかいないでしょう。」
店員「それでは奥の奥の奥の席へどうぞ。」
正男「そんな奥を極めたような場所嫌だよ。」
店員「団体様ご一行入りまーす。」
正男「だから違うってば。」

正男は席へ腰掛け、バッグから書類を出した。
正男「くそー、これだけのノルマが今日中に終わるかどうか…。」
店員「メニューとお冷をお持ちしました。」
正男「あ、ありがとう。」
店員「メニューはお決まりですか?」
正男「まだ手にして3秒経ってないよ。」
店員「お決まりになりましたらお手元のブザーでお呼びください。」
正男「分かった分かった。」
そう言うと、突然店員は自らブザーに手を伸ばした。
ピンポーン
店員「メニューはお決まりですか?」
正男「だから何してんだよあんた。」

正男は書類をにらみつけながら頭を抱え込んでペンを動かしていく。
彼の座席の隣にはノルマの書類が無造作に広げられている。
正男「えー、だから…ここはこうで…うん、うん…。」
すると店員が近寄ってきた。
店員「早く決めてよ。」
正男「うるさいなー、客の自由にさせてくれよ。」
店員「は?自由?それを獲得するためにどれだけの人々の努力があったと思ってんだ。」
正男「何の話だ。とりあえず、わかった。メニュー決めるから待ってくれよ。」
店員「ごゆっくりどうぞ。」
正男「せかしてんのは何処のどいつだ。」

メニューを広げて正男はあちらこちらへと目を配る。
正男「ちょうど昼時だし、何か腹のたまるものにするかな。」
メニューの表紙にある【本日のランチ】に正男の目が留まった。
正男「これにしようかな、でもどんな料理のランチかは書いてないし…。」
正男は店員を呼んで料理の内容を聞くことにした。
ピンポーン
店員「メニューはお決まりですか?」
正男「いや、本日のランチの料理はどんなものですか?」
店員「昨日のランチと同じです。」
正男「分かんねぇよ、しかも昨日と同じじゃ【本日のランチ】じゃないだろ。」
店員「何わけの分からないこと言ってんの?」
正男「そりゃお前だ。」

正男「じゃぁこのヒレとんかつ御膳を1つ、あと食後にコーヒーね。」
店員「それだけで満足ですか?」
正男「満足ですよ。」
店員「後悔しませんか?」
正男「しないしない。」
店員「あなたの歩んできた人生は正しかったですか?」
正男「おそらく。」
店員「ご注文を繰り返させていただきます。ヒレとんかつ御膳が1つ、そしてお食事後にコーヒーが1つ。」
正男「はい、そうです。」
店員「かしこまり困りました。」
正男「何を困ってるんだ。」
店員はテーブルを去った。

3分と立たないうちにヒレとんかつ御膳はやってきた。
店員「コーヒーでございます。」
正男「違うよ、これはとんかつだよ誰が見ても。」
店員「それではごゆっくりどうぞ。」

正男は書類を傍らにとんかつを食べていると、そこにまた店員が現れた。
店員「空いてるお皿をお下げします。」
正男「まだ1つも空いてないんだけど。」
店員「それでも下げます、全部下げます。」
正男「何でだよ、食事中だぞ。」
店員「お皿が足りないんだ。」
正男「ちゃんと買っとけよ。」

仕事をしながらということもあり、
夢中で手を動かしていたのであっという間に食べ終わってしまった。
正男「ふぅー、なかなか美味かったな。」
すぐさま店員が駆けてきた。
店員「コーヒーでございます。」
正男「やけに早いね。」
店員「まぁインスタントだし。」
正男「随分正直だね。」
店員「多分おいしくないよ。」
正男「ハッキリ言うね。」
店員「持ってくる途中飲んでみたから。」
正男「ふざけんな。」

長い間コーヒーをすすりながら、着実に正男は報告書を書き上げていく。
その姿はまさにサラリーマンの鏡であった。既に入店してから何時間も過ぎていた。
正男「終わった…。やっと出来た、これで今日は安心して寝れる。」
席を立ち、背伸びをしてレジへと足を運ぶ。その姿を見て店員がレジへと走ってきた。
店員「伝票を頂戴いたします。」
正男は白い紙切れを差し出し、財布をバッグから取り出した。
店員「1329円になります。」
正男「はい2000円。」
店員「お釣りいる?」
正男「要るよ。」

ちゃんとお釣りを受け取り、正男はファミレスを後にした。
仕事も終えた状態で帰宅し、無事に1日を過ごすことが出来た正男は、
疲れもあって早いうちかに眠りについてしまったのだった。

翌日正男が目を覚ますと、カンガルーが報告書を食いちぎっていた。




 
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